“ものづくりの街”と3Dプリンターの新たな展望

米山工業(燕三条)職人インタビュー

PROTOTYPING REPORT

新発想の都市型モビリティと、最新のデジタルファブリケーションが出会うと、どんな化学反応が起こるのだろうか?
そんな画期的な試みを実現させた、カスタムオーダーサービス「ROAD KITCHEN(ロードキッチン)」。
このサービスを使えば、自宅のパソコンやスマホで操作するだけで、自分だけのi-ROADパーツがつくれてしまう。
今回は、世界にその名を知られる“ものづくりの街”、新潟・燕三条(つばめさんじょう)にて、
i-ROAD専用マルチホルダーの3Dプリンティングに携わった米山工業へ。
3Dプリンターと職人技術を融合させ、新たな“ジャパンクオリティ”の創出を目指す
米山敏史専務へのインタビューを通して、このイノベーションの先にある未来を探っていく。
新発想の都市型モビリティと、最新のデジタルファブリケーションが出会うと、どんな化学反応が起こるのだろうか?そんな画期的な試みを実現させた、カスタムオーダーサービス「ROAD KITCHEN(ロードキッチン)」。このサービスを使えば、自宅のパソコンやスマホで操作するだけで、自分だけのi-ROADパーツがつくれてしまう。今回は、世界にその名を知られる“ものづくりの街”、新潟・燕三条(つばめさんじょう)にて、i-ROAD専用マルチホルダーの3Dプリンティングに携わった米山工業へ。3Dプリンターと職人技術を融合させ、新たな“ジャパンクオリティ”の創出を目指す米山敏史専務へのインタビューを通して、このイノベーションの先にある未来を探っていく。

prof_flow_tubame 米山敏史(よねやま・としふみ)
米山工業株式会社
専務取締役

新潟県三条市で金属加工業に携わる米山工業にて、2011年より新たに3Dプリント事業を立ち上げ。ネット経由で3Dデータを出力するサービスのほか、「YONEYAMA BRAND」での自社プロダクト開発、広報担当としてヒューマノイドロボットPepperを導入するなど、新たな試みを展開している。米山工業は1969年創業。自動車部品をはじめ、金属プレス加工や溶接加工で高い技術力を誇っている。

YONEYAMA BRAND公式サイト
http://yoneyamax.com/

img_flow_03_tubame金属加工用の高圧油圧プレス機がずらりと並ぶ工場内。1台ごとに職人が1人ずつ付きっきりで見守る中、平らな金属板が一瞬にして立体的な形状に成型されていく。

 

デジタルファブリケーションと
職人技術の、意外な接点

デジタルファブリケーションと職人技術の、意外な接点

「ROAD KITCHEN」の取り組みのうち、i-ROADの運転席に取り付けて、ペットボトルやサングラスなどの小物入れとして使用できる便利な「マルチホルダー」。試乗パイロット自身が好きな色や柄を指定し、3Dプリンターで出力を行うことで金型が不要となり、通常は相当数の初期ロットが必要となる樹脂製品を1点から提供できるという、デジタルファブリケーションならではの“多品種少量生産”を実現した。

このマルチホルダーの3Dプリンティングと、磨きや染色などの最終仕上げ加工に携わったのが、新潟県三条市の米山工業。三条市といえば、日本のものづくりを支える職人たちの街として、隣接する燕市とともに“燕三条”の呼び名で知られる地域だ。

前回の記事で、ROAD KITCHENのパートナーとして開発に携わった株式会社カブクの稲田雅彦代表は、マルチホルダーの仕上がりを「日本ならではの、圧倒的なクオリティ」と賞賛。3Dプリンターを用いたものづくりを新たな次元へと導く米山工業の取り組みについて、同社で3Dプリント事業を推進してきた米山敏史専務に話を聞いた。

―― 今回、マルチホルダーの3Dプリンティングと最終加工に携わることになったきっかけについて教えてください。

米山敏史 一般的に3Dプリンターといえば、「どんな形でもデータさえあれば、あとは出力するだけ」という“夢のマシン”だとイメージされているようですが、じつはその扱いには高い技術とノウハウが必要です。その点を評価いただいて、カブクさんからお声がけをいただいたのだと思います。

—— なるほど。3Dプリンターを扱うにあたり、どのような点に気を付けていますか。

米山 我が社はもともと、自動車部品などの金属プレス加工を手がけてきた会社です。日頃から0.1ミリ単位で厳しく精度とクオリティを追求してきたことが、新たに立ち上げた3Dプリンティング事業にも役立っています。例えば、何かに装着したり、固定したりするものを作る際には0.1ミリ単位の精度が求められますが、3Dプリンターで0.1ミリ単位の誤差をなくすことは、なかなか容易なことではありません。機械や素材の特性をきちんと理解し、その製品にあった加工・出力を行う技術が必要です。その上で今回のマルチホルダーの出力にあたっても、ご依頼をいただいた時点で3Dデータはできあがっていましたが、乗り物に装着する上で耐振動性を考慮したり、装着時のホールド感を検証したりと、細かな提案をさせていただきました。

—— 精度を追求するにあたって、どのような3Dプリンターを使用しているのでしょう。

米山 レーザー焼結タイプといわれるもので、2013年にドイツのEOS社製のものを4000万円で購入しました。これは一般的によく知られる、細長いプラスチック樹脂を積層していくタイプとは異なり、プラスチックなどの粉末素材をレーザーで焼き固めていく方式を採用しています。このタイプの機材は導入当時で日本にわずか数台という状態でしたから、我々としてもまったくの手探りで、試行錯誤を繰り返しながらノウハウを身に付けていきました。

prof_flow_tubame米山敏史
(よねやま・としふみ)
米山工業株式会社
専務取締役

新潟県三条市で金属加工業に携わる米山工業にて、2011年より新たに3Dプリント事業を立ち上げ。ネット経由で3Dデータを出力するサービスのほか、「YONEYAMA BRAND」での自社プロダクト開発、広報担当としてヒューマノイドロボットPepperを導入するなど、新たな試みを展開している。米山工業は1969年創業。自動車部品をはじめ、金属プレス加工や溶接加工で高い技術力を誇っている。

YONEYAMA BRAND公式サイト
http://yoneyamax.com/

img_flow_03_tubame金属加工用の高圧油圧プレス機がずらりと並ぶ工場内。1台ごとに職人が1人ずつ付きっきりで見守る中、平らな金属板が一瞬にして立体的な形状に成型されていく。

デジタルファブリケーションと
職人技術の、意外な接点

デジタルファブリケーションと職人技術の、意外な接点

「ROAD KITCHEN」の取り組みのうち、i-ROADの運転席に取り付けて、ペットボトルやサングラスなどの小物入れとして使用できる便利な「マルチホルダー」。試乗パイロット自身が好きな色や柄を指定し、3Dプリンターで出力を行うことで金型が不要となり、通常は相当数の初期ロットが必要となる樹脂製品を1点から提供できるという、デジタルファブリケーションならではの“多品種少量生産”を実現した。

このマルチホルダーの3Dプリンティングと、磨きや染色などの最終仕上げ加工に携わったのが、新潟県三条市の米山工業。三条市といえば、日本のものづくりを支える職人たちの街として、隣接する燕市とともに“燕三条”の呼び名で知られる地域だ。

前回の記事で、ROAD KITCHENのパートナーとして開発に携わった株式会社カブクの稲田雅彦代表は、マルチホルダーの仕上がりを「日本ならではの、圧倒的なクオリティ」と賞賛。3Dプリンターを用いたものづくりを新たな次元へと導く米山工業の取り組みについて、同社で3Dプリント事業を推進してきた米山敏史専務に話を聞いた。

―― 今回、マルチホルダーの3Dプリンティングと最終加工に携わることになったきっかけについて教えてください。

米山敏史 一般的に3Dプリンターといえば、「どんな形でもデータさえあれば、あとは出力するだけ」という“夢のマシン”だとイメージされているようですが、じつはその扱いには高い技術とノウハウが必要です。その点を評価いただいて、カブクさんからお声がけをいただいたのだと思います。

—— なるほど。3Dプリンターを扱うにあたり、どのような点に気を付けていますか。

米山 我が社はもともと、自動車部品などの金属プレス加工を手がけてきた会社です。日頃から0.1ミリ単位で厳しく精度とクオリティを追求してきたことが、新たに立ち上げた3Dプリンティング事業にも役立っています。例えば、何かに装着したり、固定したりするものを作る際には0.1ミリ単位の精度が求められますが、3Dプリンターで0.1ミリ単位の誤差をなくすことは、なかなか容易なことではありません。機械や素材の特性をきちんと理解し、その製品にあった加工・出力を行う技術が必要です。その上で今回のマルチホルダーの出力にあたっても、ご依頼をいただいた時点で3Dデータはできあがっていましたが、乗り物に装着する上で耐振動性を考慮したり、装着時のホールド感を検証したりと、細かな提案をさせていただきました。

—— 精度を追求するにあたって、どのような3Dプリンターを使用しているのでしょう。

米山 レーザー焼結タイプといわれるもので、2013年にドイツのEOS社製のものを4000万円で購入しました。これは一般的によく知られる、細長いプラスチック樹脂を積層していくタイプとは異なり、プラスチックなどの粉末素材をレーザーで焼き固めていく方式を採用しています。このタイプの機材は導入当時で日本にわずか数台という状態でしたから、我々としてもまったくの手探りで、試行錯誤を繰り返しながらノウハウを身に付けていきました。

 

img_flow_04_tubame img_flow_05_tubameレーザー焼結タイプのプラスチック用3Dプリンター、ドイツEOS社製「FORMIGA P110」。パウダー状の微細なプラスチック粉末を敷いてレーザーで焼き固める作業を、
1層ずつ重ねることで造形していく。

 

地場産業の強みを活かした、
新時代の “ジャパンクオリティ”

地場産業の強みを活かした、新時代の “ジャパンクオリティ”

―― 金属加工業を営みながら、 どのような経緯で3Dプリンターを導入するに至ったのでしょうか。

米山 まだ日本で3Dプリンターが大きな話題になる前のことですが、2011年にドイツで金属加工の大型展示会「ユーロモールド」を視察した際、実物を初めて目にしたことがきっかけです。iPhoneカバーなど、3Dプリンターで出力した製品の出来がとてもよかったので、大きく興味をそそられました。帰国してさっそく、樹脂の積層造形タイプの3Dプリンターを20万円程度で購入したのですが、期待していた仕上がりとは程遠かった。使用できる素材は限られますし、強度も足りず、表面はガタガタして、とても製品として販売できるレベルではなかったのです。それはもう、悔しくて悔しくて……。そこで、本格的に最終製品レベルの出力が可能な3Dプリンターを導入しようと思い、レーザー焼結タイプの機材を導入したわけです。とはいえ、今回のマルチホルダーでは、出力後にもう1段階、研磨加工を施すことで、滑らかかつ発色のよい仕上がりを実現しています。

—— 3Dプリンターを扱うにも、三条市の地場の特徴である職人的な技術や、その他の加工法との組み合わせなどの知識が求められるということですね。

米山 はい。金属プレス機など従来の加工機械では、設置する場所や材料の質によって調整が必要なのは当然のことです。3Dプリンターの場合も同様に、パウダーの温度や廃熱の量など、使っていくうちに機械の特性がわかってくる。「3Dのデータさえあれば、世界各地でまったく同じものを出力できる」という話をよく耳にしますが、それには高い技術と知識を持った人材が必要不可欠です。3Dプリンターを扱う者の技術と経験がクオリティを大きく左右すると言っても、決して過言ではないと思います。とくに日本では高いクオリティのものづくりが当たり前になっている以上、お客様の目はごまかせません。レーザー焼結タイプであっても、3Dプリンターで出力したままの状態では、どうしても表面がざらざらしていますから、既存の射出成型のプラスチック製品とは見た目や肌触りが大きく違います。ですから、今回のマルチホルダーにおいても、地元の研磨職人に最終の磨き加工を依頼することをご提案させていただきました。

—— こうした3Dプリンターと伝統的な職人技術の組み合わせは、まさに“ものづくりの街”ならではのノウハウだと思います。

米山 そうかもしれません。ただ、射出成型であれば樹脂製品は滑らかに仕上がって当然のはずなのに、それを何故、わざわざ磨かなければいけないのかというジレンマはありました。ところが、研磨をすることで発色が格段によくなることがわかったのです。3Dプリンターで出力したそのままの状態で染色をすると、表面の細かな凹凸(おうとつ)の中に染色液が溜まって、全体的に濁った印象になってしまう。ところが、磨きをかけてから染色することで、はっきり明るい色に仕上がるのです。この発色は、3Dプリンターに関わる人が見たら驚くレベルだと思います。

img_flow_06_tubame3Dプリントラボ全景。空調管理された空間で職人が1名、出力された製品から余分なパウダーを取り除く作業を行っている。3Dプリンターには別フロアのCADオペレーターからデータが直接送られる仕組みだ。

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“ものづくりの街” を次世代に受け継ぐ、
新たな挑戦

“ものづくりの街” を次世代に受け継ぐ、新たな挑戦

—— それだけの手間をかけてなお、3Dプリンターを使うことのメリットとは何でしょうか?

米山 それはやはり、金型が不要ということに尽きます。従来の製造方法では、時間と費用をかけてまず金型を作らなければならない。金型の制作費用を償却するには万単位の製造ロットが必要になりますが、3Dプリンターであれば1個単位で、手早く試作ができる。これは、とても大きなメリットだと思います。5年ほど前にチタン製のiPhoneカバーをオリジナル製品として発売したときのことですが、非常に好評だったものの、逆に行く先々で「Android用も作ってほしい」など、さまざまな機種用のチタン製カバーを作ってほしいと言われるようになりました。そのたびに「金型の開発に数百万かかる以上、そう簡単には作れないという事情を説明しなければいけないのが、本当に悔しかった。その経験が、3Dプリンター導入の原動力になったのだと思います。

—— いまでは、樹脂製のiPhoneカバーやカーエアコンの吹き出し口に装着するアロマポッドなど、3Dプリンターで製造したプロダクトを数多く展開されていますね。

米山 まだまだ手探りの段階ですが、こうした試みは私個人というよりも、燕市と三条市という、この地域が受け継いできたものづくりの地場があっての取り組みだと強く感じます。この土地には、あの工場は金属の鋳造、こちらは旋盤加工というように、それぞれに専門とする技術が蓄積されていて、お互いに力を合わせながら新しいことをやろうという気運がある。ものづくりを愛する気持ちがあり、1社では何もできないことを理解した上で、お互いに新しい挑戦を望んでいるのです。その上で私としても、従来のものづくりを続けるだけでは、この地場を息子たちの世代につないでいくことはできないという想いがある。常に新しい技術やアイデアを取り入れることで、産業として新たな発展につながる可能性を切り拓いていかなければならないと感じています。ですから今回のプロジェクトでも、トヨタをはじめ、カブクさんのような若い人たちと一緒にものづくりに取り組んだことは、大きな手応えになりました。3DプリンターやCNCマシンなどのデジタル工作機械には形そのものを作る力はありますが、「何を作るかというアイデアがなければ力を発揮することはできません。ですからこれからは、業種や地域をまたいで、それぞれの得意分野を組み合わせていくことに大きな意義があると思います。ぜひこれからも、新しい取り組みをご一緒させていただけたなら、嬉しいですね。

 

INTERVEIW & TEXT BY Keita Fukasawa (contributor)
PHOTOGRAPHS BY Eiji Fukasaku

ISSUED : 4 February 2016