ものづくりをオープンにすれば社会はもっと楽しくなる
カブク 稲田雅彦代表インタビュー 01

PROTOTYPING REPORT

新発想の都市型モビリティと、最新のデジタルファブリケーションが出会うと、どんな化学変化が起こるのだろうか?
そんな画期的な試みを実現させた、カスタムオーダーサービス「ROAD KITCHEN(ロードキッチン)」。
このサービスを使えば、自宅のパソコンやスマホで操作するだけで、自分だけのi-ROADパーツがつくれてしまう。
同サービスのパートナーで、3Dプリンターなどの最先端技術を用いた製品開発や
サービスを展開している株式会社カブク 稲田雅彦代表へのインタビューを通して、
サービス誕生のきっかけから、このイノベーションの先にある未来までを探っていく。

image_kabuku_03 稲田雅彦(いなだ・まさひこ)
株式会社カブク 代表取締役CEO
大阪府出身。2009年、東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂にて新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年に株式会社カブク設立。主な著書に『3Dプリンター実用ガイド』などがある。

3Dプリンターで世界にひとつだけのオリジナルパーツがつくれる

ーー未来志向の都市型モビリティを目指す取り組みの中でも、「自動車のパーツを自分好みにカスタムできる」というTOYOTAの試みに驚きました。

カブク代表 稲田雅彦(以後、稲田) そうですね。デジタルファブリケーション、つまりデジタルな製造技術の進化にともなって、誰もが好きなデザインを選んでカスタムできる時代が到来しました。さらにはユーザー自らが3Dデータをつくり、3Dプリンターで出力するなど、新しい発想でものづくりができるようになる。そんな近い未来に向け、自動車メーカーであるTOYOTAさん自らが率先してプラットフォームと呼ぶことのできる仕組みをつくり出そうとしています。これはたいへん画期的なことですし、デジタルファブリケーションに関係する人々の間では世界的にも大きな注目を集めています。

unnamed 「ROAD KITCHEN」からオーダーすることのできるフロントカバー。
iPhoneやスマートフォンのケースを付ける感覚で、自分だけのカスタムパーツをつくることができる。

ものづくりをオープンにすれば社会はもっと楽しくなる

ーーすごくワクワクする話ですね。そもそもカブクとしてこのプロジェクトに関わるに至った経緯について、教えてください。

稲田 ふとしたきっかけで、i-ROADの開発チームの方々にデジタルなものづくりサービスを紹介する機会がありまして。デジタルファブリケーションの普及によって、これまでは大企業でなければつくることのできなかったプロダクトが個人でも製造可能になり、さらに大量生産・大量消費の仕組みによらず、1点だけのものをつくることができるようになる。そして、その後押しをしていくのが我々の使命だ、というお話をしたところ、興味を持っていただいて、ディスカッションが始まっていった……というわけです。

フロー記事_3_Kabuku_2_triming_sample 7種類のデザインと9色のカラーを組み合わせてオーダーすることができるドリンクホルダー。
お絵描きソフトを使い、正面部分に好きなデザインを刻印することも可能。

ーー3Dプリンターなどの新しい技術が生まれたことで、誰もがものづくりの世界に参加しやすくなったということですね。

稲田 ソフトウェアやITの世界は、オープンソースやオープンアーキテクチャーなど情報を公開することで大きくなって、次々と社会を変えていきました。その例にならい、ものづくりの世界ももっとオープンにすることで、新しい何かが生まれるのではと考えているのです。我々はそれを「ものづくりの民主化」とよんでいます。弊社の『 rinkak (リンカク)』というサイトには『READY-MADE HACK』というサービスがあります。そこでは無料でペットボトルキャップの3Dデータを公開しているのですが、ペットボトルのキャップに取っ手を付けて持ち運びしやすくカスタムする人が出てきたり、じょうろのように使えるものが生まれたり、マラカスができたりと、生活のなかで「こんなものがあればいいな」というものが、公開されたデータと3Dプリンターの組み合わせによってすぐに実現できてしまう。それらをさらに使いやすくカスタムする人が現れて、アイデアやデザインがどんどんブラッシュアップされるなど、みんなの意見がどんどんと反映されていくのです。

Image②カブクが運営する、3Dデータをアップロードするだけで、誰でも製造・販売・発送が簡単に行えるプラットフォームサービス『rinkak (リンカク)』のトップ画面。 https://www.rinkak.com/jp/openroad?hl=ja

ーーこれまで工業的なものづくりといえば、お金もかかるしハードルが高いものでしたが、デジタルファブリケーションによって敷居が下がってきた。すると徐々に集合知が形成されていき、最終的には「ものづくりの民主化」が促進されるというわけですね。

稲田 そうなんです。データを無料で公開すれば、みんなで改良していこうという流れが生まれて「もののリミックス」のような動きが立ち上がってくる。また、個人の方でもデータをサイト上にアップするだけで、金型もいらず、在庫も抱えずに全世界へ自分の製品を販売することができるのです。

ーーなるほど。音楽の世界でいえば、「初音ミク」のような音声合成ソフトが生まれたことで、個人でもヴォーカル付きの楽曲を自由に発表できるようになっていった。それが動画サイトに投稿されて、音楽だけでなく映像やグラフィックなど、ファンを巻き込んでさまざまな方向に広がっていったのと似ていますね。そう考えると、「ものづくりの民主化」もすぐにやってきそうな気がします。

稲田 そうですね。とはいえ、3Dデータを設計するのは技術的なハードルがまだ高いのが実情です。ですからいまは、設計の知識がない方でも簡単にデータがつくれるようなサービスを立ち上げたり、工場など法人の方がより効率的にものをつくれるようなサービスの開発など、徐々に入口を広げている段階ですが、技術を使いこなす人々の数がものすごいスピードで増えつつあるのを実感しています。

製品を自分でカスタムするのがあたり前の時代

——最初にi-ROAD という新しいモビリティの発想を聞いて、そこからデジタルファブリケーションを組み合わせて何かできないかという話になったとき、どんな印象をもたれましたか。

稲田 オープンイノベーションや、デジタルファブリケーションにとってすごくいい機会だと感じました。というのも、いまのものづくりはターゲットがどんどん細分化されて、これまでのマスプロダクション(大量生産)ではもはやフィットしなくなってきています。みんな自分でカスタマイズしたり、自分でいじるのが当たり前になっているのに、メーカーにはそれに応えるツールがない。そこに対してのひとつの解決案が、デジタルファブリケーションであり、オープンイノベーションでもあるので、我々にとってはものすごくいいチャンスだなと思いました。

ーー「自分でカスタムするのがあたり前の時代になっている」というお話がありましたが、どういうものが例として挙げられますか。

稲田 カスタムまでいかないにしても、世の中にはiPhoneやスマートフォンのケースが大量にあり、みなさんそれを楽しんでいます。また、日本だと『 minne (ミンネ)』、海外だと『 Etsy (エッツィー)』のような手づくり作品のマーケットプレイスが人気で、すでに2000億円を超えるほどの市場になっています。もはや「大量生産品を買って終わり」という時代ではないんですよ。 (02へ続く)

ISSUED : 4 July 2015

TEXT BY Eizaburo Tomiyama (contributor)
PHOTOGRAPHS BY Masahiro Kato,Tomoyuki Kato