3Dプリンター × 日本の職人技術で切り拓く未来
カブク 稲田雅彦代表インタビュー 02

PROTOTYPING REPORT

新発想の都市型モビリティと、最新のデジタルファブリケーションが出会うと、どんな化学反応が起こるのだろうか?
そんな画期的な試みを実現させた、カスタムオーダーサービス「ROAD KITCHEN(ロードキッチン)」。
このサービスを使えば、自宅のパソコンやスマホで操作するだけで、自分だけのi-ROADパーツがつくれてしまう。
前回に続いて、同サービスのパートナーであり、3Dプリンターなどの最先端技術を用いた製品開発やサービスを展開している株式会社カブク 稲田雅彦代表と、
同社のインダストリアルデザイナー 横井康秀氏へのインタビューを通して、このイノベーションの先にある未来を探っていく。

kabuku02-sub01稲田雅彦(いなだ・まさひこ) 株式会社カブク 代表取締役CEO
大阪府出身。2009年、東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂にて新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年に株式会社カブク設立。主な著書に『3Dプリンター実用ガイド』などがある。

進歩し続ける3Dプリンターと、ものづくりの未来

——i-ROADのエクステリアパーツなどをカスタマイズできるサービス「ROAD KITCHEN」にも導入されている3Dプリンターですが、この技術を巡る世界的な潮流はどうなっているのでしょうか。

カブク代表 稲田雅彦 3Dプリンター自体についていえば、これまではアメリカやイスラエルの製品が市場を独占していましたが、家庭用3Dプリンターに関しては2009年、産業用についても2014年にそれぞれ特許が切れました。これに伴い、新規参入する企業が一気に増えて、製品のクオリティもまさに加速度的に向上しているというのが現状です。

——そうした状況の中で、これから3Dプリンターの導入が期待される分野は?

稲田 航空宇宙や医療の分野でしょうか。海外の例ですが、例えばボーイング社は、航空機のジェットエンジンや機体の部品などを作るのに用いています。また、医療分野では、生体に吸収される樹脂を使うことで、これまではボルトを体内に埋め込まなくてはならなかった処置が、ボルトなしでできるようになりました。また、これまでは強度や表面の仕上がりの問題で、金型の代わりとして用いられる場合が多かった3Dプリンターですが、精度の向上に伴い、最終製造品にも使われ始めています。スピードがまだ遅いという難点はありますが、それもすぐに解決されるでしょう。

 ——その結果、今後どのような展望が見込まれますか。

カブク 横井康秀 ずばり、DIY的な感覚で、個人レベルでも高精度の最終製造品を大量生産できるようになることです。例えば、我々は自分たちのオフィスで使う日用品を自前の家庭用3Dプリンターで作ったりしていますが、そのデータをそのまま使い、ワンクリックで大量生産することも可能になるでしょう。

稲田 これまでなら、製品化を実現するには数百万かけて金型を作り、ミニマムロットの製造個数を設定して、そのコストに見合う利益を回収できるかどうかを考えなければなりませんでした。しかし、その必要がなくなるので、当然、在庫を抱える心配もありません。

横井 一方で、造形の自由度も飛躍的に高まります。金型を使った従来の製造方法では、金型からうまく抜き取ることができる形状かどうかが制約になっていたわけですが、3Dプリンターであればこういったことも考慮しなくてよいので、力学的に追い込んだ形を作ることができますから。

稲田 その上で、我々は3Dプリンターメーカーでも、単なる出力サービスでもありません。いわば、3Dプリンターをはじめとするデジタルファブリケーションを使った新しいものづくりのためのシステムそれ自体を作っているのです。

kabuku02-sub02横井康秀(よこい・やすひで) 株式会社カブク インダストリアルデザイナー
オーストラリアで育ち、多摩美術大学を卒業。光学機器メーカー・ニコンのデザイン部に配属され、インダストリアルデザイナーとして一眼レフなどのデザイン戦略から量産まで、横断的にデザインに携わる。2014年よりカブクに正式参画。iF デザイン賞、レッド・ドット・デザイン賞など受賞多数。

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3Dプリンター × 日本の職人技術で世界に挑む

——そうした状況の中で「ROAD KITCHEN」プロジェクトの開発に携わられたわけですが、現在の手応えはいかがですか?

稲田 おかげさまで、デジタルファブリケーションに関わる人たちの間ではすごく話題になりました。「日本でも3Dプリンターで最終製造品を作る流れがついに来たか!」と。

——海外に比べて、日本で3Dプリンターの導入が遅れている理由は何なのでしょうか?

稲田 法的な制約条件があるというのもそうですが、業界の慣習が邪魔をしている面も大きいです。失敗を恐れる社会ということに加えて、大量生産が基本なので、いかにトラブルなくスムーズに進められるかどうかが問われてくる。ですので、新しい技術の導入に伴ってリスクが少しでもあると、排除されてしまう。だから、そういう意識の部分から変えていかなければいけないのです。しかし、イノベーションとは常にそういうもの。この技術を、きっちり“世の中ゴト化”していくのが重要だと思っています。

——そう考えればなおさら、「ROAD KITCHEN」の試みとしての先進性が際立ちますね。

横井 そうですね。大企業的な大量生産品では、スケッチを書いてから、それら一つひとつのフェーズに関して重役会議で決定していくのが一般的です。しかし、このプロジェクトに関しては、3Dプリンターによる試作のスピードアップに加えて柔軟な開発体制のおかげで、普通なら1〜2年かかることが、半年以内でできてしまった。これにはカーデザイナーの友人も「アグレッシブだなあ!」と驚いていました。

——逆に、日本のものづくりに対して可能性を感じたところはありますか。

稲田 まず何よりも職人の圧倒的な技術力ですね。今回のプロジェクトでは、燕三条の職人にパーツの最終的な磨き加工をお願いしたのですが、そのクオリティは機械的な加工ではまったく太刀打ちできません。そして、製品の最終的なクオリティを最大化しようという意識の高さ。これも海外とは比べものになりなせん。そうした技術力と信頼性に関しては、日本は世界で抜きん出ていると思います。

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横井 じつは、燕三条の職人に依頼することになった経緯にしても、我々から提案したわけではなく、工場とやりとりしている中で「研磨しないと十分なクオリティを出せない」という提案があったのです。いずれにしても、クオリティゴールの設定の高さは日本ならではだな、と感じさせられました。

稲田 実際に、最終製品のクオリティは圧倒的でした。プリンターが同じなら最終クオリティも同じだと思うのは、じつは大間違いです。残り2割の後工程の仕方によって、感覚値的には8割くらいも差が出てくる。ここまでのクオリティのものは、海外だけではそうそうできないでしょうね。メイド・イン・ジャパンを見慣れている日本の消費者の目は厳しいので、質基準はかなり高い。そして、そうした目に鍛えられてきた日本の工場と組めるということは、世界に勝負をかける上では圧倒的な強みでもあるのです。

——その上で、今回は自動車メーカーとのコラボレーションになりましたが、どんな発見や手応えがありましたか。

横井 自動車というのは、パソコンやスマートフォンよりも個人との結びつきが強く、パーソナライズされやすいプロダクトです。例えば「この車種に乗っているということは、この人はきっとこういう人柄なのだろう」と想像を巡らせたことが、誰でも一度はあるはずですよね。そうした視点から見ると、自動車というプロダクトと、個人的なカスタマイズとの親和性は、いま主流になっているスマートフォンのケースとのカスタマイズよりも、遙かに高いのではないかと思いました。

稲田 自動車は日本の製造業を象徴するものであり、老若男女問わずワクワクできるもの。その新しい試みといえるプロジェクトに関わることができたのは、とても光栄であるとともに、自分たちにとってもワクワクする体験でした。今後も、よりお客様が愛着の湧くカスタマイズを提供できるよう、精進していきたいと思います。

(03へ続く/
 「ROAD KITCHEN」プロジェクトに関わる人々に未来の展望を聞いていく予定)

 

・「PROTOTYPING REPORT」バックナンバー
 ものづくりをオープンにすれば社会はもっと楽しくなる
 カブク 稲田雅彦代表インタビュー 01

 

INTERVIEW BY Keita Fukasawa (contributor)
TEXT BY Keisuke Kagiwada (contributor)
PHOTOGRAPHS BY Kazuharu Igarashi

ISSUED : 6 October 2015