OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2016.4.4

ゼロからデザインしてこそ真のカスタマイズ。

  i-ROADはカスタマイズしたくなるクルマ i-ROADはカスタマイズしたくなるクルマ ―― 「ROAD KITCHEN」というカスタマイズサービスはどのように生まれたのでしょうか? i-ROADを様々な方に何度か乗っていただくなかで、「i-ROAD自体は個性的だけれど、このクルマがもっと広がったときには、自分だけのカスタマイズしたくなりそう」という声がたくさん聞かれるようになったんです。特にバイク好きから見ると、i-ROADには“カスタマイズしたくなる要素”があるようで、バイクからi-ROADに入ってきた方はみんな口をそろえていました。こうした意見を受け、ROAD KITCHENという新サービスに着手したのです。これまでクルマでは、外装パーツのカスタマイズサービスはほとんどなかったですから、これはチャレンジのし甲斐があると感じましたね。 —— カスタマイズに際し、3Dプリンターの活用に至った経緯を教えてください。 カスタマイズといっても、従来のような型を起こす方法はコストやバリーションを考えると限界があります。また、型を作ってしまっては真のカスタマイズにはならないだろうと考えました。いまの時代であればやはりデジタルファブリケーションが方法として最適だろうと、3Dプリンターを活用したいと思いました。ただi-ROADのフロントパネルとなるとサイズが大きいため、出力できる3Dプリンターを探すのに一苦労。結局、お付き合いのあったKABUKUの稲田氏に相談し、KABUKUのネットワークで最適なプリンターを探していただきました。 —— プロジェクトのターニングポイントとなったのはいつでしょうか。 ようやくサービスが動きはじめたのですが、じつは当初、プロトタイプのテストということもあり、いくつかのデザインパターンを用意し、それをアレンジすることで、カスタマイズサービスとして提供していました。しかしプロジェクトを進めていくなか、「果たしてこのやり方をカスタマイズと呼んでいいのか?」と疑問を持ったんです。ユーザーがアレンジというレベルで満足するわけがないと。彼らが描くデザインをゼロから作ることができて、はじめてカスタマイズサービスと言えるのではないかと、プロジェクトを一から見直すことに決めました。     ユーザー発想だからこそ 思いもよらないデザインが生まれる ユーザー発想だからこそ思いもよらないデザインが生まれる ―― ゼロからデザインを起こすにあたって課題となったのは何でしょうか。 ベースデザインの活用をやめて、ユーザーが自由な発想でデザインを起こせる仕組みを考えたときに課題となったのが、デザイナーの確保。技術があり、かつ時間がとれるデザイナーをこちらで1ユーザー1デザインごとに探すのは、今後のサービス展開を考えると現実的でないと考えました。そのときに協力していただいたのがランサーズ。彼らのクラウドソースのネットワークで、今回のプロジェクトに適したデザイナーをその都度マッチングしてもらったんです。そしてようやく試乗パイロット5期から、ゼロからのデザインが可能になりました。一般のユーザーはなかなかデザインを起こすのは難しいだろうと思い、こちら側でコンセプトシートを用意し、デザイナーと写真などでイメージを共有しながら、一緒に作り上げていく仕組みにしました。 —— デザインをゼロから作るようになってから、ユーザーの反応はどのように変わりましたか。 作るときの盛り上がり、そして仕上がったときの喜びは、アレンジの段階とは比べ物にならないくらい高まりました。やっぱりアレンジ前提で用意したデザインは、どうしてもベーシックなものが多くなりがちだったのですが、第5期の試乗パイロットの方が作ったフロントパネルは、黄色に木目デザインで、これには驚かされました。思いつかないようなデザインが生まれるのは純粋に楽しかったです。あと反応という意味でおもしろかったのは海外。アメリカでこのロードキッチンを紹介したことがあったのですが、かなり反響が大きかったです。ひょっとすると海外の方が、カスタマイズ文化が盛んなのかもしれませんね。     ―― 今後の展開を教えてください。 3Dプリンターの出力コストの問題はありますが、コストの将来予測からするとそれはすぐに解決していくと考えています。またデータ作成の人材確保も、一般のデザイナーの方々を巻き込んでいくことで確保していける可能性がみえてきました。将来的には自由にデザインを売買できるようなプラットフォームの場にi-ROADカスタマイズのマーケットがなっていけると面白いと思っています。 「Small Space Parking」のときにもお話しましたが、今回のプロジェクトも、トヨタ、デザイナー、ユーザーと、三者のモチベーションのバランスがひじょうにいいと思っています。ユーザーは欲しいデザインを作ってもらえてハッピーですし、デザイナーは自分のスキルを活かせる場ができてハッピー。トヨタとしては当然、i-ROADの魅力が増えてハッピーです。この三者の構造がきれいなら、サービスが市場に広まったときも、ビジネスがうまく回っていくのではないでしょうか。 また、これからのi-ROADのプロトタイプ開発は、時代背景やi-ROADの車両コンセプトを考えると、今あるものを、視点を変えて活かしていく、という発想が非常に大事だと思っています。無駄になっているものに光が当たった時に輝く、そんな瞬間が非常にわくわくしますね。 「Small Space Parking」と「ROAD KITCHEN」の二つのサービスがユーザーの心に届いたのは、着眼点の秀逸さだけではなく、志村氏をはじめとするOPEN ROAD PROJECTチームの実行力があってこそだったと、インタビューを通じて分かった。思い浮かんだアイデアをすぐに形にする、そんな実行と改良の積み重ねが、「自由な都市の移動」を作っていくのだろう。   TEXT BY Ryoko Sugimoto (contributor) PHOTOGRAPHS BY Tomoyuki Kato ISSUED : 4 April 2016 Article Index OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.2 「ゼロからデザインしてこそ真のカスタマイズ」 4 April 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.1 「地図には載っていない「都市の隙間」を探して」 31 March 2016 Article Index 4 April 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.2 「ゼロからデザインしてこそ真のカスタマイズ」 31 March 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.1 「地図には載っていない「都市の隙間」を探して」

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OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2016.3.31

地図には載っていない「都市の隙間」を探して。

  街の風景はそのままに、小さな駐車場を増やしたい。 街の風景はそのままに、小さな駐車場を増やしたい。 ―― 「Small Space Parking」という、新発想の駐車サービスが生まれた経緯をお聞かせください。 2014年に一般の方々に、i-ROADを貸し出すモニター調査を行いました。その時、プロダクト自体の評価は非常に高く、「楽しかった」との声をたくさんいただいたのですが、もう一方で上がってきたのが、駐車に対する不満ともとれる声でした。というのもi-ROADが小さくても、現状、一般の駐車場に停めざるを得ないわけです。実際に停めて振り返ってみると、スペースが余っているうえ、料金も普通車と同じ。なんだかしっくり来ないという感想を多くの方が持たれたようです。その声を受け、「プロダクトの改良だけを進めても、i-ROADが目指す、真の自由な移動は実現できない」と気づいたんです。つまりプロダクトと同時に、駐車サービスもセットで提供しなくては、生活は大きく変わらないだろうと。ちょうどOPEN ROAD PROJECTのプロトタイピングが立ち上がるタイミングだったこともあり、まずは駐車と充電に関するサービス、「Small Space Parking」の取り組みをはじめました。 —— 狭小スペースのネットワークはどのように作っていったのでしょうか。 今までの発想だと、専用駐車場や充電ステーションを作ろうと考えますが、i-ROADのために都市に新しいハコモノを増やす、というやり方は結局都市をまた狭いものにしてしまう。新しく施設を作るのではなく、既存のものを活用することで素早く課題をクリアしたいという想いがあったんです。そこを頭に置いたうえで街を歩いてみると、普通サイズのクルマは無理でも、i-ROADなら停められるサイズの狭小スペースが、街にはたくさんあることに気がついたのです。また、街の壁面には、現状使用されていない掃除用や自動販売機用のコンセントもたくさんあることにも気づき、これは使えるなと。すでに街にはi-ROADのチャンスはたくさんある。そんなスペースやコンセントを「使う仕組み」さえ作れば、駐車も充電もできるスペースが一気に広がると考えました。     狭小スペースを見つけるのは試乗パイロット 狭小スペースを見つけるのは試乗パイロット ―― 意外な駐車スペースに驚かされたことがあります。どのように見つけたのでしょうか。 新しいスペースの発見には試乗パイロットの皆様にご協力いただきました。僕たちは「都市を走るセンサー」と呼んでいるのですが、プロジェクトが進むにつれ、試乗パイロットの方々が新しい駐車スペースを見つけてくれるのです。地図上では発見できないような場所を、ユーザーが見つけてきてくれる流れが生まれたのはとてもおもしろかった。なかでも階段の下のスペースを活用した人がいたのには驚かされました。我々は彼らの走行データをもとに、駐車ネットワークを広げることができました。見つけると自分の生活も便利になるから、ユーザーは自分の停めたい場所をどんどん探してきてくれる。結果、サービスの駐車スペースや充電コンセントの数がどんどん増えていく。このモチベーションこそが、サービスが急速に回り始めたカギとなりました。 —— 次の課題について教えてください。 駐車サービスを始めてから、試乗パイロットの方々の開始2週間の走行距離が10倍に伸びました。これはまぎれもなくサービスの力でユーザーの生活が変わった。このデータを見た時、方向は間違っていないと強い手応えを感じました。では今後、どれくらいの数まで増やしたいかというと、ケータイのように月額で“トメホーダイ”ができるほどの数が理想。そのスケールにいくために、自然と地権者側から「うちのスペースを使ってください」とアプローチしてもらえる「シェアリング」のプラットフォームづくりが次の課題です。このビジネスのおもしろいのは、トヨタと、地権者と、i-ROADユーザーという三者のモチベーションが絶妙なバランスで組み込まれているところ。ユーザーにとっては停められる場所が増えるのはハッピーだからお金を払う価値があると思うし、自分でも探したくなる。地権者にとっては、持て余しているスペースが少しでもお金になるとハッピーだし、当然、環境が整うことはトヨタにとってもハッピー。シェアリングビジネスにおいてはこのハッピーのバランスが何より大切だと、今回のプロジェクトを通して実感しました。これはカーシェアリングを始めとして、これからのクルマと人との新しい関わり合いを考えていくうえで重要なヒントとなっていくでしょう。 後編ではi-ROADのエクステリアパーツを3Dプリンターで作る「ROAD KITCHEN」についてお届けする。 TEXT BY Ryoko Sugimoto (contributor)PHOTOGRAPHS BY Tomoyuki Kato ISSUED : 31 March 2016 Article Index OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.2 「ゼロからデザインしてこそ真のカスタマイズ」 04 April 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.1 「地図には載っていない「都市の隙間」を探して」 31 March 2016 Article Index 04 April 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.2 「ゼロからデザインしてこそ真のカスタマイズ」 31 March 2016 OPEN ROAD PROJECT 企画担当 志村和広氏インタビュー VOL.1 「地図には載っていない「都市の隙間」を探して」

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OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2016.1.22

資料をどれだけつくっても、未来はつくれない。

不確実なままでは終わらせず、次のアクションを ―― 市販されていないi-ROADをお客様に乗っていただくなんてと驚いた人もかなり多かった。トヨタがなぜそれを実行できたのか、不思議に感じます。 「i-ROADというプロダクトを世に出すには、お客様に実際に乗っていただき、生きた声を聞く意外には無いと思っていましたから。不確実のものはパワーポイントの資料だけではずっと不確実なままで、それ以上はぜったいに進まない。次に進むにはこれまでとはまったく違うアクションを起こさなければと強く感じていたので、実行できたのでしょう。ただ本社からも案外“やらせてみよう”という声が多かったのも事実。2012年から段階的に調査やモニターを実施してきたので、それらが実を結び、i-ROAD自体のポテンシャルが認められたことも大きかったと思います」 大塚友美氏 トヨタ自動車株式会社 商品・事業企画部 未来プロジェクト室長 大塚友美氏 トヨタ自動車株式会社 商品・事業企画部 未来プロジェクト室長 不確実なままでは終わらせず、次のアクションを ―― 市販されていないi-ROADをお客様に乗っていただくなんてと驚いた人もかなり多かった。トヨタがなぜそれを実行できたのか、不思議に感じます。 「i-ROADというプロダクトを世に出すには、お客様に実際に乗っていただき、生きた声を聞く意外には無いと思っていましたから。不確実のものはパワーポイントの資料だけではずっと不確実なままで、それ以上はぜったいに進まない。次に進むにはこれまでとはまったく違うアクションを起こさなければと強く感じていたので、実行できたのでしょう。ただ本社からも案外“やらせてみよう”という声が多かったのも事実。2012年から段階的に調査やモニターを実施してきたので、それらが実を結び、i-ROAD自体のポテンシャルが認められたことも大きかったと思います」     i-ROADを通じて築けたお客様との新しい関係性 i-ROADを通じて築けたお客様との新しい関係性 ―― 試乗パイロットとしてi-ROADに乗ったお客様は、みなさん楽しそうですよね。一般的な“試乗モニター”とはまた異なる雰囲気があります。 「一般的なモニターのグループインタビューでは不満点を中心に聞くことが多いのですが、i-ROADの試乗パイロットの方々はもう本当にポジティブ。“私たちが育てたi-ROADにまたいつか会いたい”と言ってもらえたときは感動しました。一緒につくっていく!という気持ちで参加してくださるお客様は、おそらくトヨタ史上初めてのこと。お客様と新しい関係性を築くことができたのが、OPEN ROAD PROJECTでの一番の喜びです」 サービスがプロダクトを使う喜びを高める サービスがプロダクトを使う喜びを高める ―― これまでOPEN ROAD PROJECTを進めてきて、どのあたりにもっとも手ごたえを感じていますか。 「プロダクト単体からサービスへと視点を広げることで、確実にプロダクトそのものを使う喜び、満足感は上がるという確信は持てました。これまで車の商品企画は閉塞感があると言われていたのですが、OPEN ROAD PROJECTをきっかけに自分たちで勝手につくっていた垣根がバッと取り払われ、ビジネスチャンスが広がっていく感覚があります。」   ―― OPEN ROAD PROJECTの次の展開を教えてください。 「ちょうどそろそろ次のフェーズにいかなくては、というところです。現在動いているプロトタイピングは、おかげさまでみなさまから高い評価をいただいているのですが、だからこのまま続けようではダメ。次のフェーズへと視点を切り替え、新たにチャレンジしていきます。一体何が起きるのかは、じつは私にもわからない部分が多い。ひょっとすると室長である私が、次の展開をもっとも楽しみにしているのかもしれません」 ダイバーシティを価値に結び付けたい ダイバーシティを価値に結び付けたい ―― 未来プロジェクト室をどのようにしていきたいですか。 「取り巻く環境は変化しつつありますが、それでもクルマは、自由な移動の手段としての価値はひじょうに高い。この車の価値を、これからもさまざまな形態でお客様に届けたいので、そのためならあの手、この手を打っていくつもりです。これは持論なのですが、次の一手を打つには、ダイバーシティというか、保守本流にいない人たちの視点とパワーがかならず大きな機動力になります。その爆発的なパワーを秘めた組織としてこの未来プロジェクト室が存在し続け、業界全体にさまざまな波及効果を及ぼすのが理想。未来プロジェクト室のメンバーには多種多様なキャラクターがそろっていますし、オープンイノベーションで外の人たちと関わることで生まれる多様性もある。これらダイバーシティの特性と新たな価値との結び付けを、未来プロジェクト室がまざまざとやってのけたいですね」 優しい語り口調ながら、言葉の一つひとつにしっかりとした意志がこもる大塚室長。大塚氏と話していると、車はただのプロダクトではなく、人それぞれのストーリーを運ぶ乗り物だということを、ふと思い出した。 TEXT BY Ryoko Sugimoto (contributor) PHOTOGRAPHS BY Tomoyuki Kato ISSUED : 22 January 2016 Article Index 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.2 「資料をどれだけつくっても、未来はつくれない」22 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.1 「一緒に描こう、クルマの未来」 20 January 2016 Article Index 22 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.2 「資料をどれだけつくっても、未来はつくれない」 20 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.1 「一緒に描こう、クルマの未来」

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OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2016.1.20

一緒に描こう、クルマの未来

激変する業界に対応するために、未来について考えよう ―― 未来プロジェクト室はどんな経緯でスタートした組織なのでしょうか。 「ここ数年、自動車を取り巻く環境が激変しています。車を持たない人が増えたり、これまでまったく自動車とは無関係だった企業が業界に参入し、なによりお客様の要望も“よりパーソナルなもの”へと移行し始めました。そういった社会の変化を受け、これまでの自動車を中心としたコンセプトから、もう少し視野を広げてアイデアを出そう、外の人たちと一緒に考えることで業界の激変に対応していこうと、2012年に未来プロジェクト室が誕生しました」 大塚友美氏 トヨタ自動車株式会社 商品・事業企画部 未来プロジェクト室長 大塚友美氏 トヨタ自動車株式会社 商品・事業企画部 未来プロジェクト室長 激変する業界に対応するために、未来について考えよう ―― 未来プロジェクト室はどんな経緯でスタートした組織なのでしょうか。 「ここ数年、自動車を取り巻く環境が激変しています。車を持たない人が増えたり、これまでまったく自動車とは無関係だった企業が業界に参入し、なによりお客様の要望も“よりパーソナルなもの”へと移行し始めました。そういった社会の変化を受け、これまでの自動車を中心としたコンセプトから、もう少し視野を広げてアイデアを出そう、外の人たちと一緒に考えることで業界の激変に対応していこうと、2012年に未来プロジェクト室が誕生しました」   未来プロジェクト室には外部の人たちと未来のシナリオを一緒に発想した「未来年表」がある。   ビジョンのないオープンイノベーションでは意味がない ビジョンのないオープンイノベーションでは意味がない ―― 外の人と一緒に、いわゆる“オープンイノベーション”をトヨタの中で行うのは難しかったのでは? 「イノベーションについて勉強するなかで、外部の方とのアイデアを組み合わせる“オープンイノベーション”について知りました。私たちプロジェクト室のメンバーも、いろいろな企業の方と未来について何度も意見を出し合いましたが、具体的なアイデアにまではなかなか到達しませんでした。その壁を突破するきっかけとなったのは、2014年の末より動き出した、“都市の移動をもっと自由に”するOPEN ROAD PROJECTです」 プロダクトだけでは自由な移動は実現しない プロダクトだけでは自由な移動は実現しない ―― OPEN ROAD PROJECTはどんな経緯で立ち上がったのでしょうか? 「きっかけはコンセプトカーであるi-ROADでした。i-ROADは未来プロジェクト室のメンバー全員がすごくポテンシャルを感じている車だったのですが、まだ世に出せる段階ではないし、果たしてどうしようかと。ただ未来プロジェクト室としてプロトタイピングの経験を積み重ねていくなか、i-ROADこそプロトタイピングに向いているのではないかと思い当たったのです。まずはお客様に乗っていただいてフィードバックをもらおうという動きになったのが2014年。始めてみると大きな反響があったり、次の課題が浮かんで来たり、i-ROADを取り巻く環境が見え始めました。プロダクトだけではなく、“サービス”を含めたイノベーションを実現していかなくてはと気づいたのもこの頃です」 キャラクターも経歴もさまざまな人が集まった未来プロジェクト室は、まさにダイバーシティそのもの。   ―― サービスに関して外の企業の方々とアイデアを出し合ったのでしょうか。 「いえ、外の人たちと一からまったく新しいアイデアを考えるのは難しいだろうと感じていました。1000個ほどのプロジェクトを走らせれば、もしかするといくつかは成功するかもしれませんが、そこまで時間をかけることはできません。だから未来プロジェクト室として、解決したい課題に対してサービスのコアとなるアイデアを持っておこうと決めました。何でもいいから新しいことを一緒にやろうとするのではなく、自分たちが抱える課題の解決に、最適なパートナーとともに取り組むのが、私たちのオープンイノベーションだと。この方法をとったからこそ、OPEN ROAD PROJECTの取り組みの一つひとつが、それぞれしっかりと形を成していったのだと思っています」 未来プロジェクトだからできることは山ほどある 未来プロジェクトだからできることは山ほどある ―― 未来プロジェクト室として今後これだけはやっておきたいアイデアはありますか。 「“これだけは”ではなく、なるべくたくさんのアイデアを形にしていくつもりです。やってみて発見することってとても多いので。できるだけ大小さまざまなアイデアを考え、意外な発想も“これはムダ”と切り捨てず、とにかくたくさん走らせたい。未来プロジェクト室だけに許されたせっかくのチャンスですから」 →VOL.2「資料をどれだけつくっても、未来はつくれない」に続く TEXT BY Ryoko Sugimoto (contributor) PHOTOGRAPHS BY Tomoyuki Kato ISSUED : 20 January 2016 Article Index 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.2 「資料をどれだけつくっても、未来はつくれない」22 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.1 「一緒に描こう、クルマの未来」 20 January 2016 Article Index 22 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.2 「資料をどれだけつくっても、未来はつくれない」 20 January 2016 未来プロジェクト室 大塚室長インタビュー VOL.1 「一緒に描こう、クルマの未来」

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OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2015.10.8

オンデマンドな公共交通機関が都市における人の移動を変える

利用者の要求に応じてサービスを提供する方式のことを「オンデマンド」と呼ぶ。これを交通機関に応用したオンデマンド交通サービスは、今世界中で話題となっている。 世界の各都市で話題となっているオンデマンド交通サービスといえば「Uber」が挙げられる。スマートフォンのアプリから、付近にいるハイヤーを呼び出し、指定の場所から目的地までユーザーを運んでくれる。事前にクレジットカード情報を登録しており、カード決済されるため、その場で現金で支払いをする必要もない。 こうしたサービスは個人から多くても数人規模を対象として提供されている。こうしたオンデマンドの交通サービスが、さらに大きな規模で提供されるようになったとしたら、都市はどう変化するのだろうか。 ヘルシンキのミニバスシステム「kutsuplus」 オンデマンドな公共交通機関の試み たとえば、主流な公共交通機関であるバス。実は、オンデマンドでバスを運航する取り組みが以前から日本でも行われている。 オンデマンドバスは、都市部だけではなく、過疎化によって運営が困難な地方の交通機関の現状解決手段として注目されるほか、自然環境への負荷軽減の方法としても注目されている。 東京大学大学院では、オンデマンド交通システム「コンビニクル」の開発に取り組んでいる。ドア・トゥー・ドアで運行し、時間を守る交通システムを実現している。 さらに、このオンデマンド交通システムは、運行すればするほどより正確な移動時間を導出できるようになっている。運行し、データを蓄積すればそれに合わせてシステムをどんどん改善していくことが可能だ。 スマホの画面を運転手に見せてバスに乗車 ヘルシンキのミニバスシステム「kutsuplus」 フィンランドには、オンデマンドバスと冒頭で紹介したUberのような交通手段とが組み合わさったような交通手段が存在する。 ヘルシンキの街中を走る青色のバス「Kutsuplus」は、9人乗りのミニバスで、乗車にはスマホのアプリを利用。乗客はアプリに出発地点と目的地点、希望時刻を入力すると、アプリが即座に、乗車地点・降車地点・時刻を返してくれる。システムが乗客のニーズに合わせた最適なルートを割り出し、随時運行されるようになっているのだ。 料金は自動的に引き落とされるようになっているため、手持ちの小銭などがなくても、利用することが可能。なお、料金は普通のバスよりは高く、タクシーよりは安い。 「Kutsuplus」の事例は単体でも注目だが、ヘルシンキでは「自家用車が走らない都市」になるという都市計画の一環として捉えていることにも注目だ。 スマホのアプリで予約や支払いが完了     公共交通機関のオンデマンド化による影響 個人の行きたい場所に、行きたいタイミングで行くことができ、かつタクシーなどの個人利用の交通手段と比較して安い値段で提供されるようになれば、都市における人の動きが変わる可能性がある。 オンデマンドバスが利用できるようになれば、より多くの人が希望する場所から場所へと移動しやすくなる。これまではバス路線がないことで移動が困難になっていた老人や、人を呼びこむことに苦労していた場所でも移動しやすくなるため、都市のモビリティとアクセシビリティを高めることへとつながる。 オンデマンド交通はシステムに接続されているため、人の移動データを取得し分析することが可能だ。こうした人の移動データは、都市計画へと展開することなども視野に入れられている。オンデマンドバスは、都市の移動を、そして都市そのものをどう変えていくのだろうか。   「OPEN ROAD INNOVATION REVIEW」バックナンバー #01 自転車とスマート化する「Copenhagen Wheel」プロジェクトに見る 都市交通の未来 #02 家と都市がつながる時代、人々の移動体験はどう変化するのか TEXT BY Junya Mori (contributor) PHOTOGRAPHS BY HSL ISSUED : 8 October 2015  

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OPEN ROAD PROJECT INNOVATION REVIEW | 2015.9.10

家と都市がつながる時代、人々の移動体験はどう変化するのか

「IoT」と呼ばれる言葉がある。Internet of Thingsの略語であり、日本語では「モノのインターネット」と訳されている言葉だ。 これまではネットワークに接続してこなかったファッションアイテムや家電、自転車や自動車などに通信機能が備わるようになり、人々の生活を大きく変えようとしている。 IoT領域における動きは、未来の都市における移動を考える上で非常に重要なものだ。今回は、都市とIoTがどう関係していくのかを紐解いていこう。 スマートホームメーカー「Nest」の躍進 IoTへの注目度が大きく増した事例として挙げられるのは、スマートサーモスタットや煙と一酸化炭素の検知器を製造してきた「Nest」という企業がGoogleに32億ドルで買収されたことだろう。 Nestの最初のプロダクトである「Nest Learning Thermostat」がリリースされた際、その美しいUIと、プロダクトがもたらす優れたユーザー体験が話題となった。 Nestの仕組みを表した動画 その後、Nestは煙と一酸化炭素を検知する「Nest Protect」を開発。Googleの子会社となった後は、ホームモニタリングのDropcamを5億5500万ドルで買収し、ネットワークカメラ「Nest Cam」を開発するなど、複数のプロダクトを展開している。 もちろん、Nestが市場へと送り出しているプロダクトも注目なのだが、同企業が注目されるのはプロダクトだけが理由ではない。 都市という視点から見ると、Nestが2014年6月に発表したスマートホーム分野の開発者向けプログラム「Works with Nest」が注目に値する。 サードパーティとの連携によって家と都市が接続 「Works with Nest」は、さまざまな端末や自動車などと連携し、スマートホームのハブとしての役割を果たしていくことを目的としたものだ。 フィットネストラッカー、照明、スプリンクラー、鍵、洗濯機など、さまざまなデバイスやサービスを開発している企業が「Works with Nest」のプログラムに参加し、パートナーシップを締結している。 中には、ガレージの開閉を行うChamberlainや、自動車にデバイスを取り付けて通信可能にしているMercedes-BenzやAutomateといった企業とのパートナーシップもある。 外出時、自動車に乗って出かけていくと、家から離れたことを感知し、自動で鍵の施錠が行われ、空調の電源が落ちる。外で用事を済ませ、自動車に乗って帰宅する途中、自宅までの距離を自動で計測し、自動車から自宅の空調へと通知が行われ、家に着くころには自宅が快適な温度になっている。自宅に到着すると、自動車とガレージが連携、自動でガレージの開け閉めが行われる。 「Works with Nest」によって生まれる連携により、こうした体験が可能だ。家と車、双方がネットワークに接続し、デバイス同士が連携することで、外出先での行動が家の環境に影響を与えるようになった。 この流れが進めば、都市でのさまざまな行動が家の環境へと反映され、逆に家での活動が都市に反映されるようになっていくことが予想される。 オートメーション化する移動体験 Nestが生み出しているプロダクトのうち、スマートサーモスタット「Nest Learning Thermostat」は、空調を家全体で管理する欧米ではすでに普及し始めている。 日本は部屋ごとに空調を管理しているため、サーモスタットが欧米と同じように普及するのは難しいかもしれない。だが、Nestが提供する火災報知機「Nest Protect」や、ネットワークカメラ「Nest Cam」であれば、インフラの影響を受けることなく日本でも導入は可能だ。 日本でもスマートホーム関連のプロダクトは登場し始めている。こうしたプロダクト同士が連携するようになれば、人々はさらなる快適さを手にすることができる。 スマートホーム領域において目指されているのは、オートメーション化だ。ユーザーがスマートフォンなどのデバイスを使って操作することなく、行動に合わせて自動で快適なサービスが受けられる状態を生み出そうとしている。 人、モノ、家、そして都市。さまざまなものが互いに接続されていく未来においても、オートメーション化は重要になるだろう。 移動しているだけで、各場面で快適な体験が可能な未来とはどのようなものか。それを想像すると、これから先に登場しそうなサービスが予測できるのではないだろうか。   「OPEN ROAD INNOVATION REVIEW」バックナンバー 自転車とスマート化する「Copenhagen Wheel」プロジェクトに見る 都市交通の未来   TEXT BY Junya Mori (contributor) PHOTOGRAPHS BY Nest Labs ISSUED : 10 September 2015

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